久しぶりに胸をかき乱されるような本に出会って、未だ私はものを生み出す作家として、何も始まって居ないのだと悟った。身体の奥にしまいこんで、それがあったことなどすっかり忘れてしまっていた矢先に、突然出会った韓国人作家の描いた世界。
読み進めるのが怖い、と感じる本というのは、実は初めてかも知れない。別にそれはホラーではない。私小説のような、詩のような、散文のようなもので、作者の体験がベースにある。国は違えど、韓国語と日本語の文法は殆ど同じだからなのか、日本語に訳しても不思議なほど身体に染み込んでくる。
15年前に引き戻される。季節が何故か思い出せない。でも確か、暑い時期だったような気がする。
しかしこの物語で扱っている季節は恐らく冬である。自分にはまるで関係のないように見えるその物語が、なぜか自分の物語のように思えてしまう。生と死、そしてもうここには居ない人。もう一人の人生がもし今も存在していたとしたら、今のような人生は存在しないであろうこと。
そう、これは多分特別なことではなく、誰にでも当てはまる物語。
あの感触
ざらついた重たく冷たい小石のようなものが腹の中に深く落ちてゆくような感覚に再び出会い、さてどうしたものかと途方に暮れる。
出来れば二度と出会いたくない、あの感じ。
それを引きずり出して、光のなかに露にする日が来るのだろうか。そんなことをしなくても、それが常に側にあることを時々思い出すだけでも良いのではないか?
どれだけの嘔吐を繰り返しても、表には出てこない、二度と出てきてはくれないものがある。出てきたとしてもそれをそれだと認識出来るのはただひとり、私だけなのだ。
誰のためでもなく、自分がそれをしたいかどうかなのだ。